海賊と呼ばれた男
2016年に公開された岡田准一さん主演の映画「海賊と呼ばれた男」がAmazon primeに上がっていたので先日観た。
原作は百田尚樹さんの書かれた小説で、出光興産をモデルにした國岡商店の歴史とその創業者である國岡の人生を描いている。
戦後の貧しい時代に敗戦国としての辛酸を舐めながらも、海外企業に負けまいと石油関連の事業に奔走していた人達の熱量を感じられる映画だった。
明確なモデルがある作品なので事実を正確に描写していない部分はどうしても出てくるし、制作サイドの視点で描かれているので注意は必要だが、当時の社会状況や有名企業の創業者の人生を知る導入として良い映画だと思う。
この記事では実際の歴史や現在の企業と映画の違いを述べるつもりは全くなく、戦争を経験した人たちの感情や振る舞いが血液がん経験者である私の目にどのように映ったかを書いていく。
以下、映画の内容に触れるのでネタバレが嫌な方は是非映画を観てから読んでいただきたい。
また分かりやすくするために実際の表現と表記の仕方を変えている部分がある。
戦場と比べれば
作品の中盤辺りで、國岡商店が日本軍のタンクに残った石油を汲み上げ、濾過処理をする仕事を石油配給統制会社(石統)から半ば無理やり押し付けられる展開がある。
その仕事には戦場から命辛々帰還した社員達が配置され、彼らは花形である石油部門の仕事だと意気揚々と現場に向かう。
しかし実際の現場での仕事は、石油と泥水が混ざり合った臭くて汚い液体が入っているタンクの中にマスクも何も着けずに入り込み、人力で石油を汲み上げるという過酷な作業であった。
政治的な思惑で、この仕事を完遂しないと日本は米国から石油が輸入できない状況であることから、最初は「こんな仕事やるか!」と言っていた國岡商店の社員たちも、徐々に日本のためにと前向きに仕事に取り組むようになる。
男たちが泥まみれになり、歌を歌って励まし合いながらきつい仕事に取り組む姿は美談のようにも見える。
さらに、一人の社員が「戦場と比べたらこのくらい!」と無理やり強がった様子でみんなを鼓舞するのだ。
私が感じたのは「入院中と比べたらこれくらい」と思ったことが結構あるな、ということである。
もちろん戦争と病気の経験を比べて語るものではないと思うが、両者をそれぞれの観点で尊重しているという前提で書かせていただくと、
映画の中で「戦場と比べたらこのくらい」という台詞を聞いたときに、この考え方や頑張り方の危うさを感じた。
客観的にこの台詞を聞いたときに「もう少し自分を大切にして…」という感情になった。
さらに戦地に行っていた人たちが石油の汲み上げという地獄のような作業に充てられているわけで、会社は「戦地と比べれば〜」思考を利用してるようにも見える。
(この後のシーンで國岡社長が多くの社員たちが戦地に行っていたことを初めて知るような描写はある。)
この場面以外にも、イランへ石油を輸入するためにタンカーを出す決断を國岡社長が下す場面がある。
当時イランからの石油輸入はイギリスが厳しく取り締まっており、英国の艦隊に狙撃されるリスクが高く、無事に帰って来られる可能性は極めて低かった。
イランの石油をタンカーに積んで帰ってくるのは命がけだったのである。
そんな危険な航海に乗組員たちは行先も告げられずにいつもの航路だと思って乗船する。
この時点でブラック企業を超えてもはや詐欺では、、、と思うのだが、ある程度航海が進んだ後に行先を告げられた乗組員は、気持ち悪いほどあっさりとこの処遇を受け入れてしまう。(映画の尺の問題もあるのかもしれないが。)
ここでも乗組員たちは「俺たちは戦争の死にぞこないだ!」と戦争経験と現状を比較している。
理不尽に対する感覚のマヒが起きている
これらのシーンで描かれているのは、上層部からのどんなに理不尽な命令でも「これは仕方ないことだ」と受け入れ、その中でどのように振る舞えば乗り切れるかを考えるという思考回路が染みついた人たちの振る舞いである。
ある意味環境に適応的であり、そうしないと自分を保てないという面もあるだろう。
彼らは理不尽に対する感覚がマヒしてしまっているように見える。
一方で〇〇と比べれば思考が良い方向に使えることもあるだろう。
前向きなことでも真剣に取り組んでいればどこかのタイミングで苦しいときや大変なときはやってくる。
そんなときに「自分は〇〇を経験してきたのだから大丈夫」と自分を奮い立たせる手段にすることもできる。
映画「海賊と呼ばれた男」では、戦争から復興を遂げるべく日本人が外国に負けずに這い上がっていく気概が描かれているのは間違いない。
一方で、戦争というお国が作った理不尽な状況に多くの人が巻き込まれ、心にも傷を負った人たちの犠牲の上に目まぐるしい発展があったのだという点も心に留めておく必要があると感じた。
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